「できるだけ決算費用は抑えたい」──これは多くの経営者が自然に感じることです。決算は毎年発生する業務だからこそ、コスト意識を持つのは当然でしょう。
一方で、決算業務は“安く終えればよい”ものではありません。期限内に正しく申告を終え、あとから修正や不安を残さないことが大切です。安さを優先した結果、手間や追加コストが増えることもあります。
この記事では、格安サービスで起こりやすい注意点と、費用と品質のバランスをどう判断するかを整理します。
「格安」が成立する背景を理解する
決算代行や申告サポートが安く提供されるのには理由があります。多くの場合、対応範囲を限定したり、業務を標準化して効率化したり、資料整理・記帳などの一部を顧客側で担う前提があったりします。ここを理解したうえで選べば、格安サービスが“うまく機能する”ケースも十分あります。
特に近年は、クラウド会計やデータ連携(DX)を前提に、経営者が記帳や証憑整理に協力することでコストを下げている事務所も増えています。
「手抜きで安い」のか、「効率化で安い」のか──この見分けが重要です。
安さのタイプとしては、大きく次のように整理できます。
| 安さのタイプ | 起こりやすいこと |
|---|---|
| 効率化(DX)で安い | 役割分担が明確。データ提出ルールが整っている。品質を保ちやすい |
| 範囲限定で安い | 申告書作成中心。確認・相談・例外対応がオプションになりやすい |
| 体制不足で安い | 連絡が遅い/説明が薄い/チェックが浅い等、品質リスクが出やすい |
格安税理士で起こりやすい3つの注意点
1)サービス範囲が想像以上に限定されている
「決算対応」「申告サポート」と書かれていても、申告書作成が中心で、決算整理や内容確認は必要最低限に留まるケースもあります。その結果、「含まれていると思っていた業務」が別料金になり、想定より負担が増えることがあります。
年末調整は、決算とは別業務のため、格安プランに限らず別料金の事務所が一般的です(「格安だから別料金」とは限りません)。また、税務署からの問い合わせ対応が、契約外(または回数制限あり)になっていることもあります。
さらに今は、消費税の世界で「申告書を作る」以上にインボイス対応のチェックが重要です。たとえば仕入税額控除では、適格請求書発行事業者の登録番号の有無確認など、実務上の確認事項が増えています。ここが省略される設計だと、数年後に根拠が弱くなり、結果的に手戻りの原因になり得ます。
2)追加料金が発生しやすい条件設計になっている
格安プランは一定の条件を前提に価格が設定されているため、条件を超えると追加料金が発生しやすい仕組みになっています。たとえば、次のような場合です。
- 仕訳数が想定より多い(取引量が増えた/帳簿が整理されていない)
- 資料の提出が遅れて、確認・修正が集中する
- 修正が何度も発生する(取引の背景確認が必要、証憑が不足、など)
「最初の見積もりは安かったのに、最終的な支払額が増えた」というケースは、条件設計の違いから起きやすいです。
3)やり取り・説明の時間が限られ、不安が残ることがある
価格を抑えるため、やり取り回数や説明時間が制限されるケースもあります。決算は「数字が出れば終わり」ではなく、利益の増減・資金繰り・税額見込み・翌期の打ち手など、経営判断にも関わります。説明が十分に受けられないと、納得感がないまま申告が進みやすくなります。
「適正価格」を判断する視点:価格の中身を見よう
適正価格とは、単に相場の中央値という意味ではありません。重要なのは、その費用がどの工程に使われているかが明確かどうかです。
決算業務では、表からは見えにくい工程にしっかり時間と労力がかかります。
たとえば、会計上の数字をそのまま申告に使えるとは限らないため、税務上の判断が必要な論点を整理し、税務調整や別表の作成・確認を行います。
あわせて、入力漏れや計上時期のズレ、科目の誤りなどがないか数字の整合性をチェックし、必要に応じて修正します。
さらに、税務署からの問い合わせや税務調査を想定して、処理の根拠や説明を整理しておくことも欠かせません。
こうした作業を申告期限から逆算して段取りし、資料回収や確認、修正のやり取りを含めてスケジュール管理を行うことで、期限内に品質を保った申告につなげています。
加えて近年は、インボイス制度や電子帳簿保存法(電子取引データ保存など)への対応が必須となり、決算まわりの実務負荷は確実に増えています。
「決算・申告」だけでなく、こうした制度を前提に運用面まで伴走できるかは、価格の妥当性を判断する大きなポイントです。
高品質なサービスを見極めるチェック項目
まず確認したい基本チェックは次のとおりです。
- 対応範囲・別料金条件が、契約前に明確に説明される
- 決算書の内容(利益の増減・税額見込み)を説明してくれる
- 事業内容や取引状況を踏まえたヒアリングがある
- 必要資料やスケジュールの案内が具体的
- 修正・追加対応が必要な場合の扱いが明確
- 資料の提出方法(紙かデータか/クラウド対応の有無)が明確
(品質とスピードに直結)
さらに、価格表の「裏側」を見抜くために、次の点もチェックしておくと安心です。ここが「YES」で揃うほど、“安く見えて高くつく”リスクが下がります。
- インボイス対応(適格請求書の確認、登録番号チェック等)が料金に含まれているか
- 賃上げ促進税制などの税額控除について、適用可否の確認や簡易シミュレーションをしてくれるか(「節税」ではなく“税額控除の適用漏れ”を防げるか)
- 電子帳簿保存法に沿った運用(電子取引データの保存方法など)について、具体的な指導があるか
※単に入力してくれるだけでなく、「どう保存すべきか」まで落ちているかが大事です(不備が続くと、青色申告特別控除に影響するリスクも高まります)。 - 税務署から問い合わせが来たとき、追加料金なしで電話対応してくれるか
(回数・範囲の条件も含めて) - 税務調査対応の質
調査時に「根拠を整理して説明できる」体制か、それとも「言われた通りに直す」運用になりやすいか
※立会いの有無、同席費用、事前準備の範囲まで確認すると安心です。
これらが「NO」であれば、いくら基本料金が安くても、将来的に大きな追加コストが発生する可能性があります。
まとめ:あなたの会社は「格安でもOK」?それとも「適正価格が安心」?
決算費用を抑えたいという考え自体は間違いではありません。ただし格安プランは、範囲・条件・体制によって向き不向きが分かれます。
取引量が少なく、会計処理がシンプルな法人であれば格安プランでも問題ない場合があります。一方で、仕訳が多い・消費税が本則課税・業種特有の処理がある場合は、適正価格の事務所のほうが結果的に安心です。
大事なのは「いくらか」ではなく、「その価格で何をしてもらえるのか」。迷う場合は、まず自社の取引量・消費税の状況・資料の整備状況を整理し、チェックリストに沿って比較すると、納得感のある選択ができます。



