皆さん、こんにちは。税理士法人のただの給与所得者、越尾です。
「役員給与なんて人生に1度ももらったことがない」そう思っていたのに、知らない間にもらっていたらどう思います?
ちょっとホラー?実はそんな事があったりするんです!
目次
士業事務所も例外ではない税務調査リスク
近年では行政書士や司法書士、社労士といった士業事務所にも税務調査が増加しています。
なぜなら、士業事務所は少人数で経営されることが多く、親族や知人を雇うことが比較的多いため、経費処理や給与におけるリスクが高まるからです。
特に、親族への報酬や経費の処理が不適切だと、税務署の調査対象になりやすいのです。
例えば、親族への給与が過剰であったり、労働実態が不明確な場合、「仮装給与」と見なされることがあるのです。
さらに、士業事務所はその業務の特性上、信頼が何よりも重要です。
税務調査の結果、不適切な経費処理が発覚すると、取引先やクライアントからの信用を損なうリスクもあります。金融機関からの融資を受ける際にも、過去の税務調査の記録が問題視されることがあります。
税務調査は経費処理や報酬設定の透明性を問われる場でもありますが、適切な対応をしていれば問題ありません。
このコラムでは、士業事務所として避けて通れない税務リスクにどう対応するか、特に親族への報酬に関して具体的なポイントを解説していきます。
では、実際にあった重加算税の例を見ていきましょう。
実際にあった例
医療法人の理事長の父が、妻、長男、次男に役員報酬や給与手当や顧問料を出していました。妻は専業主婦、長男はお医者さんですが、別の病院に勤務、次男は一般的な社会人です。
税務署長は、仮装給与であり、理事長である父に支給された役員給与である…として、重加算税賦課決定しました。
では、なんで重加算税になったのかを見ていきましょう!
労働の根拠がない!!
税務調査を行った結果、妻と次男は当医療法人でお仕事をしていないことが判明しました。
妻は専業主婦で、そもそも医療法人でお仕事はしていなかったのにもかかわらず役員報酬がでていました。
最初は妻も口裏を合わせていましたが、タイムカードなどの時間の記録、日報や週報等も含めた業務の記録もなく、院内の業務分担表等にも妻の名前がないことから、労働の実態がないことが判明しました。
奥様のお席はどちらですか?え?席がない?
本当にお仕事しているんですか?
次男は一般的な企業に勤めていましたが、コンサルタント顧問料として支払われていました。契約書等々や報告書やレポートなどの成果物もなく、コンサルタント業務をした形跡もありませんでした。
そもそも仕事をしていない人に報酬は支払って良いモノではありません。
実際に労働をしているかどうか…も、税務調査では見られるポイントです。
給与が妥当な金額ではなかった
長男は医師なので、当医療法人でも医師として患者の情報に接したり、理事長の父と一緒に回診をすることもあったけれども、仕事量に対して給与・報酬が見合っていませんでした。
医師である長男は理事長である父と共に医師として当医療法人でも働いていました。が、その報酬額が市場とは大きく乖離したものでした。
親族だからといって、給与を増やしてしまうのは絶対ダメ。
赤の他人を雇った場合を想定してこの仕事量・内容ならこの金額が妥当…と誰が見ても言えないと税務調査では否認されます。求人広告等を見て、市場価格を確認しましょう!
口座の持ち主が実際には理事長である父親だった
役員報酬、給与、顧問料はそれぞれ妻、長男、次男の銀行口座に振り込まれていましたが、通帳や印鑑、キャッシュカードは全て理事長の父が保管していることがわかりました。
結論:それって父の報酬だよね
これらから、実態は父の報酬だ…と結論づけられ、仮装給与!悪質!ということで重加算税という結果になりました。
しかも、理事長の父の給与とみなされたので、父は妻・長男・次男に払っていた金額分にも所得税・住民税・社会保険料が加算されます。
その上、妻・長男・次男に払っていた金額は役員報酬となりますが、事前に届出も出してないですし、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与には該当しません。ということは、損金不算入になりまして、法人税が高くなります。
さらに、その高くなった法人税に今回の悪事の罰として、重加算税(35%)が加算され、延滞税もプラスされます。
社会的信用も失うかも
残念ながら、重加算税を支払うと、それも帳簿に記載されることになります。
次、銀行で融資を受けようと思ったときに、その重加算税が課された形跡を銀行員が見たらどう思うでしょうか?
税務調査の結果、重加算税を課された…とわかったら、取引先も警戒するのではないでしょうか?場合によっては取引をやめる可能性もあります。
士業事務所が税務リスクを回避するための適切な報酬管理
士業事務所でも、親族への報酬や経費処理の適正化が税務調査のリスクを回避するために非常に重要です。
親族に対して報酬を支払う場合、労働の実態が明確であること、報酬が市場価値に見合った適正な額であることを確認し、必要な記録を残しましょう。
また、公私の区別を明確にし、業務上の支出や報酬管理を厳格に行うことが、士業事務所の信用を守るための鍵です。税務調査によって不正が発覚すると、信用を失い、取引先やクライアントに悪影響を及ぼす可能性もあります。
不安があれば、早めに税務の専門家に相談し、リスクを未然に防ぐことが大切です。適正な経費管理と公私の分離が、士業事務所の信頼と長期的な経営安定につながります。