個人事業主の皆様、こんにちは。
個人事業主・フリーランスといっても色々な業種の方がいらっしゃるかと思うのですが、ある程度、事業規模が大きくなってきたら、ご家族を事業に従事させ、給与を支払うケースは多いかと思います。
この場合、税務上「青色事業専従者給与」として経費に計上することができますが、注意すべき点があります。今回は、長野地裁での判決(令和4年12月9日)をもとに解説します。
目次
事例:高額な給与が否認されたケース
内科医院を経営する事業主が、看護師である配偶者に年間1800万円(毎月100万円+賞与300万円×2回)を給与として支払いました。この金額は事業主と税理士が相談して決めたものでしたが、税務署は「支払額の一部が過大」として経費計上を認めませんでした。
(給与額の増加)
平成14年4月 月額30万円
平成15年4月 月額45万円
平成18年1月 月額70万円
平成19年1月 月額80万円
平成21年1月 月額100万円
判決のポイント
裁判所は以下の点を問題視しました:
- 給与額と労務の対価関係が不明確
配偶者がどのような業務を行い、その責任や負担が給与にどう反映されているのかが示されていない。 - 給与額の決定根拠が不十分
過去の給与額や業務量の変化が適切に説明されていない。 - 統計データの限界
税理士が提出した「業界平均データ」は、給与額の正当性を証明するものとしては不十分と判断されました。
結果として、配偶者の労務に見合うと認められた適正額は、
- 平成28年~29年分:821万円
- 平成30年分:792万円
となり、それを超える金額は経費として認められませんでした。
ココから学ぶべし!経営者が気をつけるべきこと
今回の判決を踏まえ、家族に給与を支払う際には以下のポイントに注意しましょう。適正な給与を設定し、税務調査時のリスクを減らすために重要です。
1. 給与額の妥当性を証明できる記録を整備する
給与の正当性を示すには、親族がどのような労働をしているのかを明確に記録することが大切です。具体的には以下を行いましょう:
- 業務内容の詳細な記録
例えば、日々の業務日誌やタイムカードを使って、どのような仕事を行い、どれくらいの時間を費やしているかを具体的に残します。 - 職務の責任や難易度を明確化
業務の重要性や責任の範囲、特別なスキルが求められるかどうかを記載した職務記述書(ジョブディスクリプション)を作成します。 - 成果や貢献の記録
事業への貢献度(売上向上や業務効率化への寄与など)がわかるデータも用意しておくと説得力が増します。
赤の他人を雇ったときも「この人はサボってないかな?悪いことしてないかな?」とチェックするかと思いますが、親族の場合はもっと厳しくするくらいでちょうどいいです。
2. 業界水準を把握し、それを基準にする
給与を決定する際には、同業他社や業界全体の給与水準を調査し、それを基準にすることが重要です。
- 業界平均データの活用
業界団体や税務関連資料から平均給与を調べ、自分の事業規模や収益に照らして妥当性を検討します。 - 地域や事業規模を考慮
給与水準は地域差や事業規模によって異なるため、それに応じた調整が必要です。 - 税理士と相談して比較基準を明確に
税務調査時に説明できる形で、給与額の算出根拠を具体的に用意しておきます。
同業者で、同じような業務をする人の給料がどのくらいかを参考にしましょう。家族の給料だからと言ってエコヒイキしてはいけません。赤の他人を雇うときと同じ金額にしましょう。
3. 税務リスクを最小限に抑えるための準備
親族に給与を支払う場合、税務署から疑問を持たれやすい項目であることを念頭に置き、以下の準備をしましょう:
- 給与額変更の理由を文書化
過去の給与からの増額がある場合は、その理由を記録しておきます(業務量の増加、事業拡大に伴う責任の増加など)。 - 税務調査を見据えた証拠作り
税務調査では、客観的な証拠が重視されます。契約書、議事録、業務マニュアルなどを整備し、「業務に見合った給与額」であることを第三者にも説明できるようにします。 - 青色事業専従者給与の届出内容を確認
税務署に提出した届出内容(給与額や業務内容)が実際の状況と一致しているかを定期的に見直しましょう。
青色事業専従者給与は疑われやすい…というのを念頭に、赤の他人でもその業務でその金額を支払うか…などを考えて給与を決めましょう。
まとめ!
個人事業主が親族に給与を支払う場合、それが「労務の対価として妥当な額である」ことを証明できなければ、税務調査で否認されるリスクがあります。今回の判例でも、業務内容や給与額の根拠が不明確であったため、一部が必要経費として認められませんでした。
リスクを回避するためには以下が重要です:
- 業務内容や労働時間を明確に記録すること
- 業界水準や事業規模に基づいた適正な給与額を設定すること
- 税理士と継続的に相談し、証拠を整備すること
これらの対策を講じることで、税務上のトラブルを防ぎ、安心して事業に集中できる環境を整えることができます。家族を事業に従事させる際は、適正な給与設定を心掛け、リスク管理を徹底しましょう!